ハルクロス クロス貼り職人風呂井遼さん
- 2007年入塾(高1)・2010年卒業
- 京都工芸繊維大学 工芸科学部 情報工学課程 進学
URL:https://halcloth.com
インタビュー: 横川淳(物理・化学を担当)
風呂井さんの経歴をここまで読んだ人は早速「??」となっていると思うのですが、現在のお仕事について教えてください。
現在、福山市でクロス貼り職人をやっています。住宅や店舗などに壁紙を貼る仕事です。同じ職人である義父に弟子入りして、見習いを経てぼちぼち独り立ちしてきたところです。一般的なクロス貼り職人は工務店やハウスメーカーの下請けの形で仕事をするケースが多いのですが、私は自分で顧客を開拓してビジネスを行っているのが特徴ではないかと思います。
情報工学の大学に入学されてからクロス貼り職人になられるまでには紆余曲折があったのではないですか?
はい。実は私は大学に入ることをゴールのように思ってしまっていて、大学に入ってから何をしたいのかあまり考えていなかったんですよね。したいことが特になかったというべきでしょうか。それで勉強に身が入らず、単位もあまり取らずに過ごしてしまいました。
一方で、大学祭の実行委員の活動を通して、それまで知らなかった「広告」という活動に興味を持つようになりました。何十万円という広告費を集める必要があり、飛び込み営業なんかもたくさん経験しまして、面白い世界だなぁと感じました。未知の領域に踏み込む楽しさを感じたというところでしょうか。
それで大学3年の時に思い切って退学をして、広告関係の短大に入り直しました。こちらは「やりたいこと」だったので無事に卒業して、広告代理店に就職しました。そこでは新規事業の立ち上げなど刺激的な仕事に関わらせてもらいましたが、一方ではビジネススクールに通ってマーケティングなどを勉強しながら、機会を見て独立しようとも思っていました。コロナで仕事の環境が激変したのをきっかけに、妻の実家のある福山市に転居して、クロス貼り職人である義父に弟子入りすることにしました。
クロス貼りの業界は高齢の職人が多いため、若いというだけで希少価値があると思いましたし、ネット集客などの新しい技術を使えば高単価の仕事ができるんじゃないかとも思いました。目論見が当たっているかどうかは、これからの私をご覧くださいということになりますが(笑)。
全ての勉強や経験が風呂井さんの血肉になっていますね。驚きです。
コムタスでの思い出などありますか?
私は広高校に通っていたので高2まではコムタスの広中央校の方に通っていましたが、高3からは受講科目の関係で呉駅前校に通うことになりました。そうすると広高校以外の学校の生徒と知り合うわけですが、それが非常に刺激的でしたね。仮に広高校に自分よりレベルの高い知り合いが10人しかいないとしても、三津田や宮原など色々な高校生と知り合えば、20人、30人のハイレベルな人の存在を感じることができる。そういった部分が良かったです。
自習室では机についたてを立てるなどして、個室ではないのに絶妙にパーソナルスペースが確保されていて勉強しやすかったです。社会人になってからは勉強するときには図書館やカフェに行っていますが、そういう場所と比べるとやはり自習室は集中できる環境だったなぁと思います。ストイックになれる場所、という感じでしたね。
ここまでのお話に色々な「勉強」が出てきていますね。
振り返ってみると、勉強したことが色々な形で自分の役に立っているのを感じます。
例えば高校時代に勉強した物理は、今でもクロスを貼っているときに「どの向きに力を加えたらどうなるか」ということを察するのに役立っています。これは一般的なクロス貼り職人にはない視点なので、私の強みの一つだと思います。
他にも、いま新しいお客様を獲得するために行っているwebマーケティングなどは、広告代理店時代にビジネススクールで学んだ内容です。当時学んだ内容の答え合わせを今している、というような実感があります。
机の上で学んだこととそれ以外から吸収したことが絶妙にミックスされていますね。
現役のコムタス生に何かアドバイスなどいただけますか?
勉強っぽい話をした後に逆のことを言うようですが、大学を「勉強だけするところ」と決めつけずに進学してほしいですね。もっと広く「社会人になるための準備をするところ」というか、どういう大人になりたいのかを模索する場所という意味もあると思います。身近な大人といろいろ話をしてみて、「なりたい大人像」を考えることも含めて進学してほしいですね。また、仕事への向き合い方や人脈の広げ方というものも、大学の「勉強」以外の部分だと思いますが、そういうことも含めて大切なことだといま痛感しています。
それから、自分で何か新しいこと、熱中できることを見つけて取り組んでほしいですね。もし私が普通に高卒で職人をやっていたら、目的意識がなくて受け身になっていたかもしれません。言われたことをやるだけだと毎日がしんどいと思いますが、私はいま目標をもって日々仕事をしていますので非常に充実しています。逆に最初の大学生のときは受け身だったんでしょうね。それが大学中退という形につながったのだと思います。中退するときに「こんな途中で辞めたら絶対後悔するよ」と言われましたが、「自分の道は間違ってない」と信じてガムシャラにやってきました。中退は真似しなくてもいいですが、「自分で何かに取り組む」ということはぜひ現役の中高生に伝えたいですね。